essay1
(このessay(1〜7)は、2002〜2003年頃のものです。またときどき書き足したいと思っています。2007/3)

布花(ヌノバナ)と私

記念すべき、エッセイ第一回目。何にしよう???と思ったけれど、
まずは、美しくも儚い話題からいくことにしました。

チューリップ2
チューリップ
(黒とベージュのチューリップ)

布花・・・(いわゆるコサ=ジュの事です)
私が布花に始めて出会ったのは、20歳の頃でした。
たまたまよく行っていたブティックで「一日体験コサージュ教室」を開いているのを知り、 もともと洋裁好きな私、興味を持ち、友達と一緒に参加してみました、が。。。 いやぁ、 工程を知るとその繊細さにびっくり。

花の材料となるものは、基本的に糊つきの真っ白い布と針金と雄しべ・雌しべ用のペップしかなく、 まずは花弁の形に生地を裁断して専用の塗料で色を乗せていく。生花の花弁って、 下の方は薄い緑で、だんだん上に向かって花弁の色になっていくでしょう?そんな感じに。 で、乾いたら専用のこてを当てて丸みを出す。 すると、まさに生花の花弁を一枚、ちぎった時の形になるんです。素敵!! (でも、一輪の花だけでとんでもない枚数なので、それはもう大変!!30枚の花弁なら 張りあわせるので60枚必要になります!!) 同じように葉も茎も色塗りして針金に巻いていき、、。 いよいよ、お待ちかね、最終の仕上げとして、花弁をボンドで 一枚一枚丁寧にくっつけていくんだけど、もうそこで、ため息が出ちゃうのです。

私は、その時は少しくすんだ水色のバラを作りました。布だから、黒いバラだって 出来ちゃいます。しかも約30枚程の花弁が、ようやく花となっていく。。。あぁ素敵・・・あまりに感動したので、後日、材料が手に入るというお店に出掛け、いろいろと 買い揃えました。その時に、こういう花を作りたいのですが、本は売ってないですか? とたずねたところ、 「山上るい先生の花がいいのでは?」と。 早速本屋に直行。「布花」という本を見つけて、広げて、またため息・・・ (布花、という言葉は、るい先生の造語だそうです。) 先生の花は、花の蕾から、咲き乱れて枯れてゆく、その姿を、 時には生花にはない美しさで見事に咲かせていらっしゃいました。 早速家に帰って、見よう見まねで黒とベージュのチューリップやら何やらと 作ってうっとりしたものです。

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・・・その後、私は東京に引越しました。 実は、東京に来たらどうしても行ってみたかった所がありました。 それは大阪と東京でのみ、年一回開かれている、るい先生の個展。 そういうわけで上京したての95年、早速夢を叶えるために、個展に向かいました。 もうスペース中、花!花!!花!!!多分生徒さん方の作品も含まれていたとは思います。 そしてそのお花畑の中に、るい先生ご本人を発見!きゃぁ〜!!! 本にも写真は載っていたので、風貌も年齢(確か58歳位)もわかってはいました。 椅子に腰掛け、布花を見ていく人たちをゆったりと眺めていらっしゃいました。でも、、、、何故か恐れ多い気がして声をかけられませんでした。 普段は人に道を聞くのも、上司に異議を申し立てるのも結構平気な私なのに。 最初の一言が浮かびませんでした。いや、かけようという気持ちもなかったかもしれない。 ちょっとかじって布花を作っただけの私は、実際にここに来られただけで大満足だっ たんでしょう。

そして、うっとりと、先生と同じ空気を吸っていた時、私の隣から、 やはりるい先生のファンと思われる方が、先生に話しかけました。 その人が、何を言ったのかはよく聞いてませんでした。 が、先生の言葉が衝撃だったんです。おもむろに、笑いもせず、ちょっと吐き捨てるように

「布花を作るのに資格もへったくれも、あらしまへんのや。」

と、一言だけ、答えたのです。 悪く言えば、無愛想ともとれるような言い方に、ちょっと驚きましたが 次の瞬間、いや、私の隣の人は、るい先生にとってはあまり嬉しくない事をきいたのかな? とか、今までに何度も、そういう事を望む人に出会ってたのかな?と思いましたが。。。だけど、「へったくれ」とは。。。!!先生、、、

かっちょいいじゃないの〜!!! 

私は余計に先生にしびれてしまいました。 そうだよ、資格は大事かもしれないが、資格があればいいってもんじゃない。 先生は独学で色々な布花を創造されてきたのだろうな、、、だからあんなにたくましい口調 だったんだ。意外〜なんて思った自分って浅はかだわ・・・ 私も頑張らないと〜〜! その日は、なんだか、叶えたかった夢が想像以上で、とっても嬉しかった一日でした。
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・・・それから慌しい日々が続き、私は実際に布花を作ることもなく 今年を迎えました。そんなある日、ふと、私の田舎の親友が電話で 「今度コサージュ作ってよ〜。昔作ってたよね?」なんて言ったんです。 布花の事を忘れかけていた私ですが、なんだかまた創造欲が沸いてしまいました。 初めてネットで「布花 山上るい」で検索しました。また新しい本を買いたくて。いろいろなサイトがひっかかりました。るいさんのお弟子さんの開いている教室や。。。 でも、るい先生のサイトはない。でも、先生はHPってタイプではないよな〜、、、なんて お弟子さん方のHPを読んでいたら。。。 「故 山上るい先生の布花に惹かれ、私も作り始めたのですが・・・」

えっ?故?・・・

・・・よくよく出版されている本のリストを見たところ、私が個展に 行った翌年に、ご他界されたとの事でした。。。 なんだか、ものすごく、悲しい気分になりました。 きっと、あの個展が最後だったんだ。。。 早速96年2月に発売されていた、「山上るい遺作集」を買いました。 やっぱり美しい。。。本当に美しい。。。。。その本の終わりは、こんな言葉で締めくくられていました

  どんなに美しい花も、
  大地の色に溶け込んでしまいます。
  生きとし生けるものすべて、
  大地に帰っていくのです。

別に、私は布花の世界にのめり込んでいた訳ではないし、 沢山の興味深い事の内の一つでしかなかったけれど、 私にとって、あの日の先生の「へったくれ」はいつもどこかで 頑張るための力の元になってたと思うんです。 とてもよい影響を与えて下さっていた先生に 今更だけど感謝したい気持ちでいっぱいになりました。今年はまた布花、トライしてみようかな。 。。

花は、いつか枯れる。
枯れるという言葉は寂しい響きに聞こえるけど すべてを受け入れていく潔さも含まれている気がする。 そんなふうに思えるのも、布花に出会ったからかもしれないな。みな様も、良かったら、ネットなどで、るい先生、もしくは お弟子様達の布花、見てみてね。 とっても素敵だから。(essay1)

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